2021年6月4日に、「IR面談の5W1H」としてIR担当者向けの学べるセミナーを開催しました。
第2回では、面談するタイミング、「When」についてお送りします。

When: マーケットと事業の価値のギャップを埋めることが大きなテーマ

菅原氏
Whenについてお伺いします。どのタイミングだろうと、初めてお会いする企業はあると思います。上場時のIPOロードショーや上場直後、上場後にあまり継続的に成長できない企業など、タイミングから結構バラバラだと思います。初めてお会いする企業の皆さんは、おふたりにとってどのようなタイミングで会う場合が多いでしょうか。
岩谷氏
株式会社が有価証券を発行し、マーケットに流通させているという話ですよね。流通させている有価証券の価値がプライスとずれているとき、その有価証券が事業の価値というものに対して全然違うプライスがついている可能性があるという仮説がある時に、ギャップを埋めに行くのが1つの大きなテーマです。マーケットが本当に滑らかにプライスインしているのであれば、どこにもギャップがなく情報も十分流通して取引も行われているはずです。その場合はマーケットが完璧に機能しているので、お会いする必要はないですし、パブリックな情報を流していれば問題ないと思います。
ですので、マーケットの中で不完全性が大きくなっている時にお会いしています。
菅原氏
マーケットの中で不完全性が大きくなっている場合は、岩谷さんのアナリストチームが自分たちの投資ユニバースに入っている、会社プラスαの理論株価※1を算定されていて、そのギャップを常に見ていて、変動が大きくなったからそろそろお会いしようかなというイメージでしょうか。
※1 業績予想から導いた「3つの価値(資産・利益・成長)」の合計
岩谷氏
そのとおりです。そしてお会いすることでギャップがおきた理由を確認します。このギャップをお互いに納得した形で埋められると、仮説を理解できると考えています。
菅原氏
逆に言うと企業としては実施するのは簡単ではなく、理論株価を算定できるようなメンバーがIRチーム、あるいはコーポレートチームにいるかという問題もありますが、IRチームとしては理論株価を常に手元に保持しておいて、「これが攻め時だ」、「これはアンダープライスだよね」というタイミングに、証券会社に依頼しながらIR活動を加速させることが重要という事でしょうか。
岩谷氏
それはマーケットのためにもなりますよね。市場の発展のために、価格形成や流通している有価証券が滑らかに評価されているのは良いことです。全く取引されなくて、ミスプライスなものが沢山あり、発展しない市場は世界各国にあります。市場の発展に向かって貢献するその姿勢が評価できます。よって、然るべきタイミングに話を聞きたいという方向性になると私は思います。
菅原氏
自分も企業側なので納得できるのですが、自分達が持ってる株価と実際の株価のギャップでアンダープライス時に攻めるのではなく、業績がいいときに攻めがちです。でも必ずしもそれがいい攻め方ではないということですね。
岩谷氏
そうです。良くても高すぎたら売却されます。高すぎる、または安すぎると思ってコミュニケーションすることが大事です。面談を辞めるタイミングでいくと、常時フェアにぴたっとマークされていれば面談する必要はないと思います。
菅原氏
次はXさんにお伺いします。どのようなタイミングで会い始めますか。
X氏
ミスプライシングが何で起きるかというと、主観的にある企業を見て期待できるのにマーケットが放置しているからですよね。価格もですが、私はミスプライシングが何で起きているのかしっかり考えます。あるタイミングでミスプライシングが起きる原因など、自分の仮説持って、企業の皆さんに確認しに伺います。
菅原氏
例えば、弊社は上場してから10年間、当然業績の変動により株価や時価総額に幅が出てきたり、やや過熱しすぎてて自分たちが持っている理論株価よりオーバープライスな時期も、積極的にお会いして、現状をお話しています。スペキュレーション※2がマーケットに出ているわけではないですが、良くない視点で見られている事を考慮して誤解を解くためにIR活動をする場合もありますが、それは問題ないでしょうか。
※2 市価の短期間の変動の差益だけをねらって行う売買取引
X氏
各企業の戦略の方向性次第ではないでしょうか。何かしらの下げるインセンティブがあるなら下げますし、もっと上げてそれこそエクィティファイナンス※3をするのもいいと思います。
ただし、機関投資家は1つの企業をトランザクションで見るのではなく、何年にも渡って見るので、CFOとお話しした内容は結構覚えています。その内容が毎回ずれると信用できなくなってしまいますし、だんだんと距離をおいて会わなくなります。ですので、業績のファンダメンタルズについてはしっかり回答した方がよいです。答えられない場合は「回答できません。」と伝えれば済む話だと思います。
※3 企業が株式を発行することにより、事業に必要な資金を調達すること
菅原氏
私が話した内容は、機関投資家の皆さんはメモを取られながらしっかり覚えてくれているのは把握しています。私もできるだけインテグリティを持ってお話ししようとしているのであんまりずれることはないと願ってはいますが...。皆さんがしっかり覚えてくれているのは習性でしょうか。
X氏
おっしゃるとおり、メモです。私はミーティング前の準備に会社決算を必ず確認します。そして、過去のメモを見返します。
菅原氏
岩谷さんも数年前の内容もしっかり覚えてくれてますよね。
岩谷氏
人間対人間の対話と考えがちですが、実際は株式会社とマーケット間の情報のやりとりのギャップをなくすことなので、全部記憶されていると思ったほうがいいと思います。機関投資家に言ったけど個人投資家には言わなかったとか、そういうギャップは極力なくしていき、マーケットのために正しい理解をしてもらうことはとても大事です。
菅原氏
少しずれますが、価値観を提供しようとバリュープロポジション※4をずらさないように経営しながらも、おそらくどの企業も中期経営計画を策定し、計画に向かって進んで行くにつれ、おぼろげにしか見えていない世界観が、時間軸が進むにつれて解像度が上がった関係で、若干説明の言葉が変化することがあると思っています。そういう因果がある中で、実際にズレてしまった場合と、本当はズレてないんだけど解像度が上がったから説明が変わった場合の違いは、投資家の皆さん注意深く見ているポイントでしょうか。
※4 顧客にとっての商品の価値
岩谷氏
例えば、中期経営計画は12ヶ月先の計画を発表しますが、だんだん残り時間が迫ってくるとリアリティが上がってきたりしますよね。本来は、時間と期待の等差を常にロールしてムービングターゲットにするのが良いとは思いますが、目標に向かって徐々に近づいて来ると、以前のコミュニケーションの定義とは変わってくることもあると思います。そうは言っても、ベストエフォートでやってるのは投資家はみんなわかっていると思います。中期経営計画を発表した当初は3年先を織り込んで、近づいてくると1ヶ月先に近年になるみたいなことが起きることがありますが、できるだけ近視、遠視をいつも一定に保てるといいと思います。

機関投資家は常に競合優位性をチェックしている

菅原氏
Xさんにもう1つお伺いしたいのですが、私も常にインテグリティを持ってぶれない経営をしようとしながら、実際見えていないところで若干のいろんな振れ幅が起こることは、当然世の中の摂理としてわかっています。そこで、多くの企業がどこまで開示すべきなのかという質問です。数字の目標、損益計算書の目標、経営指標になるKPIの目標、あるいはその戦略の詳細等、諸々ありますが、ここら辺に関してはブレる可能性があってでもフルに開示した方がいいのでしょうか。それとも企業の経営の自由度をある程度、担保したレベルで良いのでしょうか。
X氏
難しい質問ですね。個人的には後者がいいと思います。理由は、開示そのものが目的じゃなくて、企業がいかに業績を良くしていくのかが経営の本質なので、「投資家の意見ばかり気にして経営できません」、では本末転倒だと思うからです。ですので、皆さんがやりやすいように実施すればいいと思うのが本音です。
しかし、投資家としては何かしらの目線は欲しいので、方向性の大体の概要だけ説明されて、どの程度を目指してるかわからないと、将来的なマネジメントの目線がわからなくなります。
ですので、方向性とマネジメント目線を描いてくれるととてもわかりやすいです。その達成可能度は、業界や企業、そしてその競合を熟知しているアナリストの仕事ですよね。競合は3と言っているのに、自社だけ300というのは明らかにおかしいですよね。ですので、繰り返しになりますが、達成可能かどうかを判断するのはアナリストの仕事だと思います。
菅原氏
1つの例ですが、業績を同定する方程式があり、変数が4つあるとしたら、その中で1番重要な変数、つまり主要KPIですね、これを投資家に目標として提示をして、残りは概要を説明しておいて、残りの3つの変数の数字が変わっても、トータルが一緒になるような説明でも大丈夫ですかね。
X氏
投資家が好むのは、数字が最後に来ることです。数字までの道のりを説明するのは難しいと思いますが、数字を提示した上で、かつ納得できるような内容だったら尚更嬉しいですね。
数字を提示する前の本質的な説明が必要な理由は、企業がなぜ存在するのか、つまりこの企業はなぜここに存在するのか、つまり競合優位性をしっかり見ています。ですので、そういう説明をしてもらうことで腑に落ちると、企業が目標値を出してきた時に、達成「できる」、「できない」の判断ができます。ですので、数字だけ出されるのは、「判断は難しい」といえます。投資家側も理解しているんですよね...CFO含め、IR担当の方々本当に大変だなと。
菅原氏
競合優位性の話が出ましたが、人数や投資スタイル等は関係なく、海外投資家の方がカテゴリーキラーなのでしょうか。業界内のポジショニングをかなり気にされている気がするんですけど、それは海外投資家の特徴としてあるのでしょうか。
X氏
私の感覚値にはなりますが、あると思います。順で言うとロンドン、ニューヨーク、東京、シンガポール、香港ですね。ロンドンは10年先まで見て過ごしている感じです。ニューヨークはたぶん2〜4年ぐらいですね。例えばですけど、インターネットだったらキャッシュを燃やしても、トップラインを伸ばす。イーコマースの会社等は、圧倒的に競合優位性を作ってマーケットのスケールを大きくし、ドミネートするイメージです。
そのためには、利益を多少毀損しても問題ないと考える投資家もいますし、逆に短期の次のクォーターを見てる投資家は、「マージンが下がりましたがどうするんですか」という質問を投げかけると思います。つまり、投資家によって見方は違うと言うことです。
ですので、長期的に企業を投資するには、競合優位性を理解しないと張れないのです。本当に好きな会社には株価が下がったときに足します。そういう時こそ、先ほど岩谷さんがおっしゃったように、プライシングディスロケーションが起きている時期なので、そのコンビクション※5を持つためには競合優位性を理解しないと足せないんですよね。
※5 強い推奨
菅原氏
やはりファンダメンタルベース、あるいはロングオンリーの投資家が多いアメリカ欧州の投資家は、かなり競合の関係性や競合に対する優位性、そしてマーケットにおけるポジショニングやステークホルダーに対するバーゲニングパワーをよく聞くと感じていましたが、今のお話で納得できました。
 
第2回では、面談するタイミング、「When」について、株式会社とマーケット間の情報のやりとりのギャップをなくすことのが市場の発展に繋がること、そして機関投資家は競合優位性を重要視していることなど、幅広くお話いただきました。次回は、「Who」「What」についてお送りします。