2021年12月16日に、「はじめてのコーポレート・ガバナンスコードとESG対応」をテーマにセミナーを開催しました。
2021年はコーポレート・ガバナンスコードの改訂、2022年は東証の市場再編と大きな変化が続きます。
今回は、元楽天IR部長で『楽天IR戦記』著者の市川 祐子氏に、「コーポレート・ガバナンスは何のため行うのか?」、「機関投資家が求めるESGとはどのようなものか?」、「ESGはいつから取り組むのが良いのか?」といった内容をお話しいただきました。当日の参加者より「基礎的なお話から始まり、理解が進みました。」などの前向きな感想が多く寄せられました。
第3回目はESGの基本についてお送りします。

まずサスティナブルファイナンスの台頭からお話します。GSIA(世界持続可能投資連合)の2020年のデータによると、世界のサスティナブル投資の残高は三十五兆ドル、その2年前と比べ15%増となっています。欧州のデータの定義が変わり、欧州比率が減ったように見えますが、欧米では3割~4割、日本では約2.5割がサスティナブルな投資に充てられています。これには株式と社債の両方があり、色々な投資が含まれます。背景として、資金提供者の意識が変わってきたことが挙げられます。投資にも消費にもサスティナビリティを重視するという価値観が多数になってきたことや、投資家の評価手法の中に気候変動が100%組み込まれるようになってきたところが多いということです。加えてセンチメントとして、コロナ禍で人的資本を重視しているとも感じました。

ここでESGの認識について、4象限でお話ししたいと思います。一昔前の考え方では、G(Governance)は企業の持続的可能性に効くけれども、E(Environment)やS(Social)は社会にとってはいいことだが、何かコストがかかるのではないかと思われていました。しかし今は、EもSも、社会の持続可能性と企業の持続可能性の両方を実現するものであり、それを統合しているのは”理念”であるという認識に変わってきたように思います。例えるならば“株主と社会の共通善”といったところでしょうか。具体的には、従業員のエンゲージメントを高めるような育休や公正な人事評価制度がここに該当します。一方でリストラなどは、株主にとっては良くても、社会にとって良いかは場合によるため、株主のエゴと言えなくもありません。業績やパフォーマンスに直接関係のない評価において、年功序列は社会(の一部)に良い面もあるがコストがかかる、など「株主はどう考えるか」を意識した分け方をされると良いでしょう。単に良いことや倫理的に良いことだけを取り上げると、それを株主は求めていない場合もあるので注意してください。

よくわからないと一番言われているのが気候問題です。気候問題に対処することを倫理的な問題や地球の問題と捉えることには違和感があり、私は”気候問題=人間社会の経済的損失の問題”と捉えています。気候変動の対策費用が、無策でいるよりトータルで安いと言われていることはご存じでしょうか。環境省のHPに載っていたイギリスの調査によると、気候変動を講じない場合の社会的損失は、今とこれからの将来の世界各年のGDPの少なくとも5%に値し、より広範囲の影響を考慮するとGDPの20%以上になると分析されています。一方で、同レポートの中で、何か対策を講じる費用については、世界各年のGDPの1%程度と記されています。短期的にコストが増えるといったことも言われますが、せいぜい各年のGDPの1%で、何も気候変動対策を講じなかった場合の、例えば災害などで被る損失のほうが莫大となるため、何か対策を進めたほうが得ということなります。

一つ例として挙げさせていただきたいのは、毎年出されているブラックロックのCEOのレターです。ブラックロックの運用資産は800兆円あるといわれていて、日本のGDPが500兆円なので、それに比べるとかなり大きいですね。ブラックロックは、日本株に最も投資している機関投資家でもあります。CEOのラリー・フィンクが毎年強調していることは、「ブラックロックの資金は我々自身のものではなく、多くの国々の人々からお預かりしている資金であり、老後の資金のように長期的な資金を確保されようとしています。」つまりは、我々はその様な責任を負っている、と伝えているのです。例えばどういうことかというと、気候変動対策にはインフラ整備のためにたくさんのお金を必要し、更に具体的にいえば、日本国内では約40センチ海面が上がると、そのための港の修復費用が約20兆円かかるというデータがあるのです。整備をどうするのか、水害が起こりやすい地域の住宅ローンをどうするべきか、その保険が存在するのか、食品価格が異常気象によって上がればインフレがどうなるのか、新興国での生産性が大きく変わるかもしれない、ということを考えていくと、投資家にとって、もはや「気候変動は投資リスクである」という認識になります。

実際、ラリー・フィンクも「世界各地のお客様は真っ先に気候変動を取り上げています。気候変動のリスク自体は何十年とかかるかもしれませんが、それに備えた資本の再配分のお金を動かす時期はもっと早い段階で来るでしょう。」とレターで述べています。つまり、気候変動リスクに備えたお金の動きというのは今現在とても速い動きで起こっています。
資金提供者は”一般の人”と言いましたが、世界の“一般の人”の価値観も変わってきています。その様な中、電通の“サスティナビリティに関する世界の消費動向”というデータでは、①人種差別の是正や資源を守るブランド社会または改善する企業のブランドを買う、②男女不平等に関する是正の広告への賛同、③環境負荷が低い商品やフェアトレードも消費が多少高くても選ぶ、これらのどの指標でも日本は一番低く、特に③”多少高くても選ぶ”という設問では、日本人の「Yes」という比率は最低でした。少なくとも日本と他の国(イギリス、アメリカ、中国、インド)とでは大分認識に差があるということがわかります。

一方、ビジネス上のプレッシャーから、必要に差し迫られている「価値観」があります。これは全員で対応しなければならないことです。例えばトヨタでは、人権デューディリジェンスをサプライチェーン全体で取り組んでいます。サプライヤーと協力しリスクの監視や追跡を行うと宣言しております。トヨタがやるということはトヨタと直接取引する企業だけではなく関連会社などあらゆるところに波及するでしょう。また、アップルはカーボンニュートラルを達成するため、サプライヤー百十社以上へ再生エネルギー100%に向けて協力を仰ぐプロジェクトを行っています。トヨタやアップルが取り組んでいるのであれば、もはや世界中の人々が取り組まなければならないことであり、ビジネスをする上で非常に重要になってきているということです。さらに採用面でも、社会環境関連の発信はとても重要だと考えられます。日経新聞で、”来春卒業の学生が就職先企業を決めた理由を30個の中から5個まで選んでください”という記事がありました(ディスコ調査)。この中で一番多かった項目が「社会貢献度が高いから」でした。「給与」や「将来性がある」よりも多い結果が出たことを踏まえると、株主以外でも社会環境関連は非常に重要であると言えます。

続いて、SDGsとの関係についてお話しします。SDGsは国連が定めたサスティナブルな開発目標です。最近SDGsがブームのようになっていますが、なんとなく倫理目標と思っている人がいるかもしれません。そうではなく、開発目標なので「どの様に成長するか」ということのために行います。そしてそれに対する規制強化や要請義務が企業や投資家にはあり、投資家自身も国や国連の規制に対応しなければならないので、投資家が持続的にリターンを得るために企業に働きかける手段としてESGを行います。
上記のことから、企業がESGという言葉を使用するのは少し違うのかもしれません。本来はCSRがそれにあたるのかもしれませんが、CSRには社会貢献活動みたいな色がついてしまっている印象もあるので、ここではサスティナビリティと言わせていただきます。この様な関係にあるので、SDGsとは必ずしも企業がやるべきことではないものも含まれていると認識していてください。

それでは、企業価値に効く成長機会となるESGとは何か、例えば気候変動を解決する再生エネルギーの会社や障害者雇用を導入している会社などは、社会課題が事業機会となる商品やサービスをやればやるほど成長率を押し上げるのでぜひ行っていってください。

一方でリスクをコントロールするESGがあります。人権問題などはリスクですよね。こういったリスクを管理するタイプのESGは、DCF法でいうと割引率を引き下げることになります。例えば原材料が南アフリカの鉱山にあるケースでいうと、人権問題で何かが起こると価格が乱高下するリスクがあり、そうするとその割引率を引き上げることになるので企業価値は低くなります。リスクをコントロールするためのESGも、企業価値の向上へと繋がります。そのようなESGを企業にしてもらう、というのが株主にとって望ましいESGとなります。

第3回目は、ESGに関する事例やデータを参照しながら、ESGはただのコストではないというお話をお送りしました。
最終回となる次回ではESGに対しての取り組み方に関してお送りします。

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