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セミナーレポート

「株式市場で活躍するIR担当者になるための成功戦略」Vol.1 

2021年4月2日に、「株式市場で活躍するIR担当者になるための成功戦略」として学べるセミナーを開催いたしました。
IR担当者のよくある課題として、新たな機関投資家の開拓方法がわからない、自社のIRの目標や方針が不明瞭、IRの専門性の強化が挙げられます。今回は、2000年から20年間、IR担当責任者や社長室長としてヤフー株式会社(現Zホールディングス)を支え、そして2021年に社外取締役への階段を駆け上がった浜辺真紀子氏をお迎えしました。株式市場と経営陣の対話を推進し、コーポレートガバナンスにも深く関わりながらキャリアアップしてきた経験を、惜しみなくお話しいただきました。

当日は、700名を超えるIRに関わる方々にご参加いただき、質疑応答も活発に行われました。海外投資家を含めた株主構成の戦略的な構築方法、IRの目標設定方法、そしてIR担当者のキャリア形成の3つを中心とした本セミナー内容を、4回にわたってお伝えしていきます。

第1回は、浜辺さんの今までのご経験で培われてきたIR担当者としての成果、そして海外投資家を含めた株主構成の戦略的な構築方法についてお送りします。

 

浜辺真紀子氏 経歴
東京外国語大学スペイン語学科卒。
卒業後チリ中央銀行東京事務所(チリ大使館財務部)入所。 JPモルガン証券、カタルーニャ州政府東京事務所、トムソン・ファイナンシャル・インベスター・リレーションズを経て、 2000年ヤフー株式会社入社。IR責任者として勤務。
2014年4月~2017年3月まで、SR(ステークホルダーリレーションズ)本部長として経営陣と市場との対話を統括するのみならず、会社機構再編、株主総会運営、株式を活用した事業戦略などに取り組む。
2018年4月より社長室長。
2019年9月ディップ株式会社入社。 執行役員コーポレートコミュニケーション統括部長として勤務。1年3ヶ月で海外投資家比率を13%から29%まで向上させる。
2021年3月よりソウルドアウト株式会社の社外取締役に就任。
2021年3月より株式会社大塚商会の社外取締役に就任。
主な著書は、『ヤフージャパン 市場との対話 20年間で時価総額50億円を3兆円に成長させたヤフーの戦略』

質の高いアウトプットを出すためにはチーム力が不可欠

私は、Y社のIR責任者を17年間担当していました。2017年に、一度IRから離れたタイミングで本の執筆を開始しました。書くことによって改めて、今まで自分がやってきたIR責任者としての業務を振り返り俯瞰することにより、こうして皆様にお話ができるベースを構築することができました。その後2019年にD社にIR責任者として入社しました。そこでは、Y社の17年間で得た知識経験を基盤に戦略を練り、実行しました。

元々D社にはIRチームがあり、課長とメンバー合わせて4人のメンバーがいました。それぞれ、他業務の兼務があったので、実質的には2.5人という体制でしたが、皆が協力してIR活動にあたっていました。D社在籍中に実現できたアウトプットは私1人で達成することは絶対不可能でした。モチベーションが高いメンバーがいたからこそ、質の高いアウトプットを出すことができたと考えています。最低限のマンパワーリソースは、自社の状況を見極めて確保することが必要だと思います。

IR担当者は経営の重要な柱に深く関われるポジション


D社の主なKPI上のアウトプットは上記に書かれている内容です。1年3ヶ月という短かい在籍期間にも関わらず、これだけの成果を出せたことは、自分でも驚いています。本講演を聞いて、何か皆さんがまだやっていないことがあればチャンスだと思ってやっていただければと思います。
まず、外国人投資家比率ですが、13%から29%に上昇しました。そして大量保有報告書がグローバルな投資家から提出されました。1社目がC社(2019年11月頃)でしたが、こちらは、私の入社前から既にいたメンバーでコミュニケーションを開始していた成果だと思います。

次に、A社(2020年9月)、N社(2020年11月)、そして私が退職した1か月後にF社が大量保有報告書を提出しました。それまでD社では、保有目的で大量保有報告書を出した機関投資家は、ほぼいなかったと記憶していますので、大きな変化だったと思います。
空売り残高は、私が入社した後はかなり減少しました。最近のコロナ渦で微増したものの、安定的に推移しています。

そしてESGスコアです。私の入社時点で、FTSEのESGスコアが2.8点でした。ESG専任者が周囲の協力を得ながら、半年で社内情報の収集を行い、様々なデータの算定開始した結果、2.8点を3.6点にすることができました。合格ラインは3.3点なので、スコアは合格ラインを大きく上回ったということです。ただこの時点では、残念ながら時価総額が規定を満たさずに組み入れが果たせませんでした。ところが昨年の12月に、FTSEが大型株のみならず中小型株の組み入れを開始することになりました。それで組み入れが実現したのです。また、在籍期間中には統合報告書の礎になる機会とリスクの洗い出しなども同時に進めました。

このように、私がD社で実行したことは、株主構成の戦略的な構築であったり、ESG経営の土台を形成することだった、つまり、経営の重要な柱の1つを担えることができたと考えています。

株主構成の戦略的な構築は内から見つめ直すことが重要

「株主構成の改善のために具体的に何を実施すればよいのでしょうか」、「海外機関投資家を増やしたいけど、開拓は何から始めればいいでしょうか」という質問をよくいただきます。このような質問を伺うと、私「樵(きこり)のジレンマ」という話を思い出します。こんな内容の話です:ある旅人が通りかかったところ、木こりが木を切っている姿を見かけました。よく見ると、木こりの斧が刃こぼれしていました。旅人は、「斧を研いだ方がいいのではないでしょうか。」と木こりに言うと、木こりは「木を切るのが忙しくてそれどころじゃないんだ」と答えました。つまり、研いでいない切れない斧で切ろうとするよりも、時間を使ってでも斧を研いだ方が効率的であることの例えの話です。

新規の機関投資家開拓も同様だと思っています。闇雲に新規投資家にアプローチして開拓しようとするよりも、既存機関投資家や既存株主との対話の質を向上させることが、最終的には新規機関投資家開拓に繋がっていくと考えています。リソースもあり、資料も充実しているような大企業であれば、積極的に開拓することも必要かもしれませんが、たいていの会社のIR担当者は、リソースが限られる中で戦っています。ですので、限られた人的及び金銭的なリソースの中で、私とD社のメンバーが率先して実施したことは、斧を研ぐこと、つまり対話の質を高めることでした。

上記に5つ記しましたが、基本こそが大切です。まずコーポレートサイトのIRの情報量と質の担保です。一般的な必要項目はすべて掲載されていることが大前提です。財務事業のKPIはトレンド把握できるようにします。できればエクセルをダウンロードできるようになっていると尚良いです。

英訳にはクオリティと時間のバランスを大事に

英語版サイトには日本語版と同じ項目が内容、量、質に差異なく掲載されていることが大事です。英文の質を担保した上で、プレゼン資料も日英同時に開示されていること、そして第三者レポートを活用していることも重要です。

英文の質は、Google 翻訳などを利用して英語の質が低い内容をサイトに掲載すると非常に信用度が下がります。例えば、私たちも通販で購入を検討する時に、外国語から直訳したような説明文が記載されているサイトには不信感が募りますよね。同様に、「なんちゃって」英語で書かれているコーポレートサイトに対しては閲覧者からの信頼性が低くなります。

ただし、決算発表やプレゼン資料を英訳することは、非常に時間が限られた中で完成させなければならないため、クオリティとのバランスが非常に重要だと思っています。決算資料についてはまず「数字が間違えていない事」、「財務項目に関する記載に間違いがなく、誤解を生まない事」を第一優先にしてください。あとは残った時間で、最善の内容を作成することが大事になってきます。一方で、ホームページや印刷物の英語に関しては、ネイティブのエディターに外部委託して、格が高い英語を目指す方がいいと思います。ネイティブのエディターについては、毎回違う人に依頼すると英語の質がバラバラになってしまうので、いつも同じ人に頼んで、しっかり自社について理解してもらって育てていく事をお勧めします。

そして第三者レポート。何故第三者レポートが必要なのか?統合報告書やIRレポート、決算資料は自社で作成するとどうしても「自社視点にフォーカスした積み上げの情報」になってしまいがちです。第三者レポートは、会社がお金を出して第三者に中立的なレポートを書いてもらうのですが、このレポートが1本あるだけで機関投資家が最初に会社を理解するのに非常に役立ちます。セルサイドレポート、つまり証券会社のレポートがあるじゃないか、と思われるかもしれませんが、昨今では決算発表後にショートレポートが出る程度です。私がY社にいた頃は、セルサイドアナリストについては20社ぐらいにカバーして頂いていたのですが、ロングレポートが発行されることは、アナリスト交代時が中心で頻度が高くありませんでした。そういった中でも(株)シェアードリサーチはレポート内容のみならず英語の質が高く、こういったレポートがあるのは非常に役立つと思っています。

既存株主とのディスカッションを基盤に企業価値を高める

「既に株式を保有している株主は、株価形成に役立たないから新規株主の獲得が必要だ」と考えている人もいます。私も昔はそう思っていました。しかし、既存株主と株主価値向上についてディスカッションして、そのフィードバックを社内で揉んで新しい取り組みをすることは、株主価値の向上に活用するという意味で非常に重要です。また、機関投資家同士、特に外国人投資家は横のネットワークが強いので、株主価値が高いことが理解されると、その噂が株式市場で広がり、新規の機関投資家を引き寄せることもあります。面談を依頼してくる機関投資家にしっかり株主価値を提供し、彼らのネットワークを活用することが必要です。

Y社在籍時にCFOがウォーレンバフェットのバークシャーハサウェイからの投資を希望していたので、コンタクトしたことがありました。しかし、先方がY社側に興味を持っていない中、会社側がゼロからアプローチを開始して興味を持ってもらうことは非常に難しいことを実感しました。面談を依頼してきてくれる機関投資家は、「自社への興味」を既にクリアした投資家です。振り向いてもらうところから始めるよりも効率性が格段と高いので、リソースが限られてる中ではまずはこのチャンスを活用することが重要だと思います。

 

第1回では、ご自身の経験から、試行錯誤しながら自分の役割に誇りを持ってIR活動を進めてきた内容について詳しくお話いただきました。
次回は実際に、機関投資家や株主と対話をする際の事前準備についてお伝えします。

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